岩井俊二監督の映画「ラストレター」が公開となりますが、ラスト・レターには小説があり、また、物語のベースになった前作や小説があったり、岩井俊二監督自身の経験などが元ネタとなっていたりします。
さらに映画「ラブレター」とも繋がりがあると言われています。
今回は、映画「ラストレター」の原作や元ネタ、「ラブレター」との繋がりなどを深堀りしたいと思います。
【ラストレター】映画の原作や元ネタ
映画「ラストレター」の原作・脚本・監督を手掛けた岩井俊二監督ですが、この作品が制作されるまでには、長く深い道のりがありました。
どうやら、「ラストレター」の原作・元ネタとなる物語は、岩井俊二自身の実際の体験であるようです。
岩井俊二監督の実際の体験が、映画「ラブレター」を生み出し、その後、映画「チャンオクの手紙」を生み出し、今回「ラストレター」を制作する流れとなったようです。
岩井俊二監督の実体験から、ラストレターが制作されるまでの流れを深堀りしてみましょう。
ラブレター 1995年
岩井俊二監督が監督した初の長編映画は、「ラブレター」でした。
「ラブレター」という映画の内容は、「婚約者の藤井樹を遭難事故で亡くした博子が、亡き藤井樹宛に手紙を書いたところ、返信が返ってきた」という物語です。
博子に手紙を送り返してきた藤井樹(女)は、藤井樹(男)の中学の時の同級生で、同姓同名の子だったのです。
博子は、意外な進展に驚きますが、亡くなった藤井樹(男)のことをもっと知りたいという思いから、もう一人の藤井樹(女)と文通を続けます。
文通を繰り返すうちに、藤井樹(女)は、中学の時の藤井樹(男)のことをいろいろ思い出していくようになります。
そして、最終的には、藤井樹(男)が中学時代に、藤井樹(女)に送ったラブレターを見つけ、藤井樹(男)が思いを寄せていたことを知るのでした。
映画「ラブレター」は、岩井俊二監督が実際に経験した「学生時代の恋」を懐かしむ気持ちが生み出した作品と言えるでしょう。
しかしこの段階では、映画ラブレターは、あくまでも「作品」として、岩井俊二監督の中に一線が引かれていた印象があります。
チャンオクの手紙 2017年
2017年には、岩井俊二監督は韓国ショートフィルム4話を1つの映画にまとめた「チャンオクの手紙」を公開しています。
主人公のウナは、2人の子を持つ母親ですが、同時に夫の母親の介護もしています。
子供はまだ手のかかる歳で、義母の介護も簡単ではなく、夫の協力を得ることもできずに、毎日悪戦苦闘しているウナですが、明るく前向きに生きています。
しかし、ある日、義母のチャンオクが亡くなってしまい、チャンオクが家族の皆に手紙を残していたことを知ります。
しかし、ウナには手紙が残されていませんでした。
映画「チャンオクの手紙」は、チャンオクがなぜウナに手紙を残さなかったのかという理由があきらかになる最後に感動する物語です。
この作品でも、やはり、岩井俊二監督の「手紙」に関する思いと、「伝えたくて伝えられなかった思い」がキーとなっています。
岩井俊二監督が「手紙」にこだわっているのは、無意識か、意識的かは分かりませんが、岩井俊二監督は根っからの「小説家」なので、「書くこと」が岩井俊二監督の根本にあるからでしょう。
岩井俊二監督は、「『チャンオクの手紙』という手紙が物語の鍵となるショートフィルムを撮った時、脚本を書いていて面白かったのでもうちょっと膨らまそうと思った」と語っていましたが、おそらく、過去に「伝えたかった思いを伝えられなかった誰か」がいて、そのことが岩井俊二監督の中で、気にかかっていたのではないかと思います。
ラストレター 2020年
2020年に公開される映画「ラストレター」は、岩井俊二監督の元ネタとなる原体験がもっとも詰め込まれた作品だと言われています。
この作品も、やはり、キーとなっているのは「手紙」と「誰かに対する思い」で、岩井俊二監督には、どうしても伝えなければいけない誰かへの思いがあるようです。
岩井俊二監督といえば、今は東京に住んでいるようですが、宮城県の仙台市出身です。
宮城の高校を卒業後、横浜国立大学で美術を学んでいましたが、学生時代から小説家を目指していたという岩井俊二監督。
映画「ラストレター」は、まさに、小説家が主人公の「手紙」と「想い」がキーとなる物語です。
小説「未咲」
映画「ラストレター」の中には、「未咲」というタイトルの小説が登場しています。
主人公の乙坂鏡史郎という小説家は、高校を卒業後、横浜の大学に進学し、未咲という女性と再会して恋人同士になりますが、未咲は他の男にさらわれるように鏡史郎の前から姿を消します。
岩井俊二監督は、「(未咲は)自分の大学時代をベースに、横浜を舞台にした作品」と語っています。
さらに、岩井俊二監督は、映画「ラストレター」が出来上がる前に、小説「未咲」を書き上げており、この作品をよりどころに、「ラストレター」を書き上げたそうです。
つまり、岩井俊二監督の中には、大学時代に自分の元を離れていった女性へ伝えたい気持ちがあり、それが手紙として書き出され、その手紙が元ネタとなり、映画「ラストレター」が作られたということですね。
ということで、「ラストレター」は、元ネタとなる岩井俊二監督の実体験が最も凝縮されている物語なのですね。
映画【ラストレター】の原作小説
「ラストレター」の小説はというと、映画「ラストレター」の撮影現場で得た詳細を元に「原作小説」として完成させたそうです。
撮影している間に、小道具などで細やかに演出する際に得たアイディアを小説に持ち込んだと岩井俊二監督は語っていました。
しかし、「映画と小説は全く同じであるべきではない」という考えを持つ岩井俊二監督は、小説を読んだ後と映画を見終わった後に「感じるもの」は、それぞれ異なるように小説を仕上げたと言います。
映画「ラストレター」と「ラブレター」の繋がり
映画「ラストレター」は、「ラブレター」という原点に立ち返る物語だと言われています。
言い方を変えれば、「ラストレター」は「ラブレター」のアンサームービーだと岩井俊二監督はコメントしています。
アンサームービーとは、以前制作された映画に答えるような映画作品ということです。
もしかすると、映画「ラブレター」に登場したラブレターに返答する手紙として、「ラストレター」に答辞として登場するという意味かもしれません。
または、映画「ラブレター」に登場した人物の想いに、答える想いが「ラストレター」の中で描かれているという意味なのかもしれません。
いずれにしても、映画「ラブレター」が、人生初のラブレターの物語であったのに対し、映画「ラストレター」は、人生初のラブレターを超える、人生最後のラブレターということなのでしょう。
個人的には、人が過去に残している「悔い」のようなものから立ち直る為のヒントが、「ラストレター」には秘められているのではないかと思っています。
というのも、映画「ラブレター」は、ほのぼのとした初恋のういういしさが表現された作品でした。
それに比べ、映画「ラストレター」では、初恋の淡い想いが「あの時、確かに、想いがあった」と強調されるような印象があります。
なので「ラストレター」を制作した岩井俊二監督が、伝えたくて伝えられなかった過去の誰かへの思いを手紙によって昇華することができ、また過去の思い出の扉を閉じて前向きになれたことを意味するような映画に仕上がっているのではないかな、なんて思ったりします。
まとめ
岩井俊二監督の「ラストレター」の原作小説は、映画の撮影中にこぼれたアイディアが詰まった小説で、元ネタとなっているのは、自身の学生時代の恋愛経験なのでした。
また、「ラブレター」と「ラストレター」の繋がりは、「ラブレター」に何らかのメッセージが「ラストレター」によって返されるということなのでした。